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「介護が必要になったら、いったい誰が手続きをして、誰が段取りをしてくれるんだろう」。一人暮らしをしていると、そんな不安がふと頭をよぎることがあります。家族がいないと、そもそも退院すらできないのではないか。そう感じている方も、少なくありません。
この記事では、大学病院の医療相談員として現場で見てきたことをもとに、実際にはどう進んでいくのかをお伝えします。
「介護が必要になったら、私はどうなるんだろう」
漠然とした不安を、いったん3つに分けて考えてみます。1つ目は、介護保険の申請などの手続きを誰がするのか。2つ目は、ケアプランなどの段取りを誰が決めるのか。3つ目は、家の中のことを誰がやるのか、です。
結論から言うと、このうち手続きと段取りについては、実はそれほど心配しなくて大丈夫です。自分で考えておく必要があるのは、3つ目の「家の中のこと」だけだと私は思います。この記事では、それぞれがどう進んでいくのかを順番にお伝えしていきます。
まず結論——おひとりさまでも、介護は始められる
先に結論をお伝えします。家族がいないことを理由に、介護保険が使えなかったり、退院できなかったりすることは、ありません。
「身寄りがないと何もできないのではないか」というイメージを持たれがちですが、現場での実感としては、一人暮らしの方の介護も、普通に手続きが進み、普通に退院していきます。制度も病院も、家族の有無だけで対応を大きく変えるようにはできていません。手続きも段取りも、代わりに動いてくれる専門職がいます。自分ひとりで何もかも背負う必要はありません。
申請は、代行してもらえます
要介護認定の申請は、本人でなければできないわけではありません。地域包括支援センターやケアマネジャーが、本人に代わって申請を進めることができます。一方で、サービスを利用するための契約は、本人が行うことになります。とはいえ、入院中であっても、病院で契約を交わすことができます。わざわざ自宅に戻ったり、事業所まで出向いたりする必要はありません。
代行といっても、勝手に話が進んでしまうわけではありません。本人の意向を確認しながら、必要な書類をそろえたり、窓口とやり取りしたりする部分を引き受けてもらえる、という意味です。分からないことがあれば、その都度聞きながら進めることができます。
「家族がいないから申請できない」ということはありません。申請の具体的な流れについては、要介護認定の申請方法にまとめてありますので、そちらもあわせてご覧ください。
介護度が出るまでの間は、地域包括支援センターが動きます
介護保険の申請をしてから、実際に介護度が決まるまでには、しばらく時間がかかります。その間も手続きが止まっているわけではなく、地域包括支援センターに担当のケアマネジャーとして動いてもらえるよう調整する、という形になります。これは家族がいる場合も同じで、サービスに関することはケアマネジャーが担当するため、家族の有無で進み方が変わるわけではありません。
地域包括支援センターは、市区町村が設置している高齢者の総合相談窓口です。2025年4月末時点で、全国に5,487か所(支所を含めると7,374か所)あります(厚生労働省「地域包括ケアシステム」)。まだ介護保険を使っていない段階でも相談できるので、早めに一度連絡しておくと安心です。お住まいの地域の担当センターは、厚生労働省の介護サービス情報公表システムから住所で調べられます。
サービス担当者会議は、本人の意向で進みます
サービスの利用に向けて、サービス担当者会議という場が開かれます。本人、ケアマネジャー、サービス事業者が集まって、これからの支援方針を決める場です。
家族がいる場合は、家族の意向とすり合わせる時間が必要になることがあります。一人暮らしの場合は、本人の意向をその場で直接確認しながら進めることができます。どちらが良い悪いという話ではなく、進み方が少し違うだけだと私は思います。
会議の日程も、本人の体調やスケジュールに合わせて調整してもらえます。難しい言葉が飛び交う場ではないかと身構える方もいますが、分からないことはその場で聞いて大丈夫です。
退院はどう進むのか——段階的に整っていきます
退院についても、一人暮らしだからといって特別に難しくなるわけではありません。「介護用ベッドが用意できていないと退院できないのでは」と心配される方もいますが、そういう状況はあまり考えられません。
多くの場合、まずは普通に自宅へ退院し、そのうえで訪問介護のヘルパーや訪問看護を調整していく、という順番になります。介護度が正式に決まってから、体調に合わせて介護用ベッドなどの福祉用具を導入していくのが一般的な流れです。そのあとは在宅で過ごしながら、必要に応じて相談し、少しずつ整えていくことになります。転院・施設・在宅という行き先の選択肢については、退院後の行き先の考え方で詳しく整理しています。
入院中の着替えや身の回りのものについては、病院でレンタルできることが多く、独身・おひとりさまの入院、誰に頼む?でもまとめていますので、あわせてご覧ください。
ただし、家の中のことは別です
ここまでは、心配しなくて大丈夫な話でした。ただ、ひとつだけ、自分で考えておく必要があることがあります。それが、家の中のことです。
ケアマネジャーに相談できることはたくさんあります。どんな福祉用具が必要か、どこに置くか。ベッドの搬入日と退院日をどう調整するか。家に入れる人がいないという事情そのものを、正直に伝えることもできます。
一方で、介護保険のサービスに含まれないこともあります。部屋の片づけや模様替え、家具の移動、大掃除といった作業です。ヘルパーができるのは、あくまで日常生活の援助の範囲内にとどまります。福祉用具の事業者も、搬入と設置まではしてくれますが、片づけまでは対応していません。
自分の場合に何をどこまで頼めるのかは、ケアマネジャーに確認してみてください。もし自分で片づけまで頼みたい場合は、自費のサービスを利用することになります。
選択肢のひとつとして、介護保険外のオーダーメイド介護サービスを扱う事業者もあります。イチロウもそのひとつで、全額自己負担にはなりますが、介護保険では対応できない部分を頼める場合があります。対応エリアは7都府県の一部に限られるので、まずはお住まいの地域が対象かどうかを確認してみるとよいと思います。
お金の使いどきと、頼り方
ここまでとは別の話として、現場でよく見かける状況をひとつお伝えしておきます。
貯えは十分にあるのに、「これは老後のために取ってあるお金だから」と、自費のサービスを使うことをためらう方に、しばしばお会いします。ただ、これはお金の問題だけではないように感じています。自費のサービスに限らず、介護保険のサービスであっても、できないことを誰かに補ってもらうこと自体に、気が進まないという方もいます。備えというと、お金を貯めることのように思われがちですが、いつ・何のために使うかを決めておくことと、人に補ってもらうことを受け入れておくことも、備えのひとつなのではないかと私は思っています。
「元気なうちに」が難しいことは、私もわかっています
「元気なうちに準備しておきましょう」と書いてある記事は、他にもたくさんあります。ただ、正直に言うと、多くの人は「自分はまだ大丈夫」と思いながら日々を過ごしています。
それは私自身も同じです。家の片づけや持ち物の整理は、何かきっかけがないと、なかなか手をつけられないものだと思います。「分かってはいるけれど、動けない」というのは、普通のことなのではないでしょうか。だから、「今すぐやりましょう」とは言いません。ただ、そういうものだということを知っておいていただけると、気持ちが少し楽になるかもしれません。
家に入ってもらえる人は、何人いますか
最後に、ひとつだけ数えてみてほしいことがあります。
もし自分が入院することになったとき、家に入って様子を見てもらえる人は、何人いるでしょうか。鍵を預けられる人はいるでしょうか。
数えてみて、意外と少ないと感じる方もいれば、思ったよりいると気づく方もいるはずです。どちらであっても、それが今の自分の状態を知るということです。
ゼロだったとしても、それは責められることではありません。ただ、知っておくと、備え方が少し変わってくると思います。誰かに気づいてもらえる仕組みについては一人暮らしで倒れたら、誰が気づく?に、鍵の備えについてはSwitchBotスマートロックを使ってみた実体験レビューにまとめています。家の中の情報をどこかに書き残しておくことについては、エンディングノートの書き方が参考になります。
まとめ
手続きも、段取りも、実は一人でも回るようになっています。自分で考えておく必要があるのは、家の中のことだけだと言ってもいいかもしれません。介護は、始まってみると、思っていたよりも多くの人の手を借りながら進んでいくものだと思います。一人で抱え込む必要はありません。
今日できることがあるとすれば、家に入ってもらえる人を数えてみることくらいで十分です。介護が始まる前後の全体の流れはおひとりさま・独身の終活マップにまとめていますので、あわせてご覧ください。


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