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「親が認知症になってから慌てて動いても、手遅れになることがある」——こんな話を聞いたことはありませんか?
たとえば、認知症が進んで判断能力が低下すると、親名義の銀行口座が凍結されてお金を引き出せなくなることがあります。老人ホームへの入居契約や不動産の売却も、本人の判断能力が必要なため手続きができなくなってしまうことがあるのです。
そんなときに頼りになるのが「成年後見制度」です。ただし、この制度には2種類あり、「法定後見」と「任意後見」では使えるタイミングが大きく違います。元気なうちに知っておくことで、選択肢がぐんと広がります。
私は大学病院の医療相談員として働きながら、社会福祉士として成年後見の研修も受けてきました。制度を正しく理解して、いざというときに慌てずに対応できるよう、一緒に確認しておきましょう。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が低下した方を、法律的に保護・支援するための制度です。財産管理や施設との入居契約など、本人が自分で行うのが難しい法律行為を、後見人が代わりに行うことができます。
判断能力の程度によって、次の3種類に分かれています。
| 種類 | 対象となる状態 | 後見人(支援者)の主な権限 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力がほぼない状態 | 財産管理・法律行為全般の代理・取消し |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な状態 | 重要な法律行為への同意・取消し |
| 補助 | 判断能力が不十分な状態 | 特定の法律行為への同意・取消し(範囲は限定的) |
申立ては家庭裁判所に行います。どの種類に該当するかは、医師の診断書をもとに判断されます。
後見人は誰がなるの?
「後見人には家族がなれるの?」という質問をよく受けます。答えは「なれる場合もあるが、必ずそうとは限らない」です。
法定後見(すでに判断能力が低下している場合)
法定後見では、後見人を選ぶのは家庭裁判所です。家族を候補者として申立て書に記載することはできますが、裁判所が別の人物を選任することもあります。最高裁の司法統計によると、2022年に新たに選任された成年後見人のうち、親族が後見人になったのは全体の約18.1%にとどまっています。弁護士・司法書士・社会福祉士などの専門職が選ばれるケースが増えており、専門職が選任された場合は月額2〜6万円程度の報酬が継続的に発生します。
任意後見(まだ判断能力がある場合)
任意後見では、本人が判断能力のあるうちに、将来の後見人を自分で自由に決めることができます。信頼できる家族や友人を指定できるのが大きなメリットです。ただし、公証役場で公正証書として契約を結ぶ必要があります。
💡 法定後見と任意後見の違い
| 法定後見 | 任意後見 | |
|---|---|---|
| 使えるタイミング | 判断能力が低下してから | 元気なうちに準備する |
| 後見人の選び方 | 家庭裁判所が選任 | 本人が自由に選べる |
| 手続き先 | 家庭裁判所 | 公証役場(効力発生時は家庭裁判所) |
| 家族を後見人にできるか | 必ずしもなれない(約18.1%) | できる(自由に指定) |
任意後見のメリット:元気なうちに決めておく
任意後見の最大のメリットは、「自分の意思が最大限反映される」という点です。
法定後見では、判断能力が低下してから家庭裁判所が後見人を選任するため、本人の希望が十分に反映されないことがあります。一方、任意後見は元気なうちに契約を結ぶため、「誰に後見人になってほしいか」「何をしてほしいか、何はしてほしくないか」を事前に細かく決めておくことができます。
たとえば「施設には入らず、できるだけ自宅で過ごしたい」「財産の管理は任せるが、処分の際には家族に必ず相談してほしい」といった希望も、契約に盛り込むことができます。法定後見に比べて、本人の価値観や生き方を尊重した支援が受けやすいのが任意後見の特長です。
ただし、任意後見は「判断能力があるうちにしか契約できない」制度です。認知症が進んでから「任意後見にしておけばよかった」と思っても、そのときには法定後見しか選択肢がなくなります。これが、元気なうちに知っておくことが重要な最大の理由です。
📋 任意後見契約の手順
①後見人になってもらう人を決める(家族・友人・専門家など)
②公証役場で任意後見契約を締結(公正証書を作成。費用の目安:2〜3万円程度)
③判断能力が低下してきたら、後見人候補者が家庭裁判所に申立てを行う
④家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任することで、契約の効力が発生する
※任意後見監督人(司法書士・弁護士など)の報酬は月額1〜3万円程度が目安です
現在の成年後見制度の問題点
成年後見制度は多くの方を助ける有用な制度ですが、現状にはいくつかの問題点があります。最も大きな問題が「一度始めると、原則として本人が亡くなるまで続く」という終身制です。
「相続手続きがあるから後見を開始したのに、その後も続いてしまった」という声は、医療相談員の現場でもよく耳にします。不動産の売却や遺産分割協議といった特定の手続きが終わっても、後見は自動的には終了しないのです。
また、専門職が選任された場合の報酬は継続して発生します。月額2〜6万円とすると、年間で24〜72万円。10年続けば数百万円になることもあります。「こんなに費用がかかるとは思っていなかった」というご家族の声も少なくありません。
こうした「使い勝手の悪さ」から、必要性を感じていても利用をためらう方が多い現状があります。厚生労働省の資料によると、認知症の方は全国で600万人を超えているとされる一方で、成年後見制度の利用者は約24万人(約4%)にとどまっています。
⚠️ こんな誤算が起きやすい
・「相続の手続きが終わったら後見を終了したい」→ 原則として終了できない
・「家族を後見人として希望した」→ 専門職が選任されて月額報酬が発生した
・「費用はそんなにかからないだろう」→ 専門職の報酬が何年も続いた
・「認知症になったら任意後見にしよう」→ そのときには法定後見しか選べなかった
2026年改正でどう変わる?(見込み)
こうした問題点を踏まえ、政府は成年後見制度の見直しを進めています。2026年の通常国会に民法改正案が提出される予定とされており(2026年5月時点)、制度が大きく変わる可能性があります。
改正の方向性として議論されているのは、以下のような内容です(いずれも現時点での見込みであり、確定した内容ではありません)。
- 終身制の見直し(見込み):支援の必要性がなくなったと認められた場合、後見を終了できるようになる見込みです。
- 目的が終わったら終了できる(見込み):遺産分割・不動産売却など特定の手続きが完了した場合に後見を終了できる仕組みが検討されています。
- 「必要なときだけ使える制度」へ:「守られる制度」から「必要なときに、必要な範囲だけ使える制度」への転換が期待されています。
制度が使いやすくなることは歓迎すべきことですが、「改正されてから考えよう」と待っていると、その間に認知症が進んで任意後見を選べなくなる可能性もあります。改正の動向を注視しつつ、今から動き始めることをおすすめします。
📌 2026年改正のポイント(見込み)
①終身制の見直し:必要性がなくなれば後見を終了できる仕組みが検討されている
②特定手続き完了後の終了:相続・不動産売却などが終わったら終了できる見込み
③「いざというときだけ使える制度」への転換が期待されている
⚠️ これらはすべて現時点での見込みです。改正内容の最終決定は、最新情報をご確認ください。
こんな場面で必要になる
「まだ先の話」と思っていても、成年後見制度が必要になる場面は突然やってくることがあります。実際に現場で見聞きした事例をもとに、具体的な場面を挙げます。
- 認知症が進んで銀行窓口での手続きができなくなり、生活費の引き出しが難しくなった
- 老人ホームへの入居手続きで「本人の判断能力の確認が必要」と言われた
- 相続の遺産分割協議で、認知症の親が参加できる状態でなくなってしまった
- 実家の不動産を売却しようとしたが、本人名義の同意が得られず手続きが止まった
- 医療機関への入院・介護施設との契約を家族だけでは進められなかった
💡 こうなる前に動いてほしい
成年後見制度は「困ってからでも使える」制度ですが、任意後見は「元気なうちにしか準備できない」制度です。「まだ早い」と思っているうちに、選択肢が一つ減ってしまいます。
親の物忘れが気になり始めたら、まず地域包括支援センターや専門家に相談することをおすすめします。
まずどこに相談するか
「成年後見について相談したいけど、どこに行けばいいの?」という方のために、主な相談先をまとめました。費用や手続きの内容は相談先によって異なりますので、まずは無料で相談できる窓口を活用するのがおすすめです。
📍 相談先一覧
地域包括支援センター(無料)
→ 最初の相談窓口として最も利用しやすい場所です。成年後見制度の概要を教えてもらえたり、専門家への橋渡しをしてもらえたりします。近くのセンターは市区町村窓口やインターネットで探せます。
家庭裁判所
→ 法定後見の申立て先です。書類の書き方など、電話での問い合わせにも対応しています。
公証役場
→ 任意後見契約は公証役場で公正証書として作成します。事前に電話で予約してから出向くのがスムーズです。
弁護士・司法書士・社会福祉士
→ 制度の選択や手続きの方法など、具体的なアドバイスをもらいたい場合は専門家への相談が安心です。市区町村が主催する無料相談会を利用するのも一つの方法です。
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まとめ
成年後見制度には「法定後見(なってから使う制度)」と「任意後見(元気なうちに準備する制度)」の2種類があります。どちらが向いているかは状況によって異なりますが、選択肢を持つためにはまず「知っておくこと」が大切です。
2026年の制度改正により使いやすくなることが見込まれていますが、今から任意後見を検討しておくことの価値は変わりません。「まだ早い」ではなく、「元気なうちだからこそ」考えられる制度です。一人で抱え込まず、まずは身近な相談窓口に声をかけてみてください。
📌 この記事のまとめ
①成年後見制度には「後見・保佐・補助」の3種類があり、判断能力の程度によって分かれる
②任意後見は「元気なうちにしか準備できない」制度で、後見人を自分で選べるのが最大のメリット
③法定後見は家庭裁判所が後見人を選任し、専門職が選ばれる場合は月額報酬が継続して発生する
④現行制度は終身制で使いにくい面もあるが、2026年改正で改善が見込まれている
⑤まずは地域包括支援センターや専門家に相談することから始めよう
エンディングノートとあわせて準備したい方はエンディングノートの書き方、家族への話の切り出し方は親との「もしもの話」どう切り出す?もあわせてご覧ください。認知症の初期症状については※内部リンク:認知症初期症状チェックリスト記事へ(公開後に追加)もご参考に。
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